オーガニックPGSひろしま 運営方針
1.活動の背景
庄原・三次エリアを中心とする広島県北地域は、中国山地の山々に抱かれた美しい里山である。
豊かな自然と気候に恵まれ、古来より、農業を基幹産業として発展してきた。
しかし、特に1960年代以降の産業構造の変化、価値観の変化等により、地域の人口は減少。
それに伴って耕作放棄地が増加するなど、地域の維持運営が困難になりつつある。
また、農の在り方と食べ物を通じて、子どもたちの健康が蝕まれているのではないかという不安、食の安全性への不信感が、地域のみならず全国に広がりつつある。
一方、地域には、戦後高度成長期の価値観の変化に惑わされず、土地の健全性、地域のつながりや人間関係、豊かな自然環境などが大切に守られてきた一面もある。地域文化の継承、土地とともに生きる在り方、人間関係の再構築に、改めて価値を見出す若者も増加している。
このような背景のもと、「農」を中心に、「有機的」なつながりを基盤とする、古くて新しい「文化圏」を創造したいと考えた私たちは、ゆるやかな「有機的コミュニティ」の誕生を目指して参集した。この「有機的コミュニティ」は、我々が住む美しい惑星に存在する、人間を含むあらゆる生物(動植鉱物・微生物)、自然、土や水など、すべての存在が関わり合い、生かしあい、生かされあって暮らす場を意味する。
この「有機的コミュニティ」の実現に向けて、私たちはIFOAM-Organics International(以下「IFOAM」とする。) の提唱するPGS(Participatory Guarantee System : 参加型認証制度)のシステムを軸として利用し、国内・世界の他地域の人たちと連携しながら、活動していく。
2. IFOAM/PGSを軸に定める理由
環境の保全や安全な食が求められている中で、農薬や化学肥料を使用しない農地が全農地に占める割合は、日本では、わずか0.5%に過ぎない。
その原因は多岐に渡るが、有機JAS認証にかかる経費や膨大な事務作業が、小規模農家にとって大きな負担となっていることは間違いない。
昨今、健康不安、生態系の破壊、地球環境の悪化、肥料の枯渇など、諸問題が私たちの社会の根底に、広く深く横たわっていることが、日々明らかになってきている。そのような中、農薬や化学肥料を使用しない、環境に配慮した、持続可能な農業のあり方を模索する生産者、またそのような農法で生産される農産物を求める消費者は、ともに増えている。しかし、日本の有機農産物市場の規模は非常に小さく、生産者と消費者双方のニーズが満たされる「場」が不足している。そのため、生産者と消費者が出会う機会がなく、市場が拡大しないという、悪循環に陥っている。
これらを解決する方法の一つとして、IFOAM-Organics International(国際有機農業運動連盟(注※1))が推進している、PGS(参加型認証制度(注※2))がある。このシステムを導入することにより、生産者は、有機JAS認証にかかる労力とコストを削減し、有機JASに頼らずとも「自分たちが互いに認証しあった、信頼できる生産物」を販売できるようになる。消費者その他のステークホルダー(注※3)は、生産者のほ場を自分の目で確かめる、生産者から直接説明を聞く、勉強会を始めとした活動に参加すること等を通じて、生産者や農業に関する理解を深め、生産者との信頼関係の中で、安心して農産物を購入できるようになる。さらに、この取り組みを行うことで、地域コミュニティの価値を高め、関わる全ての人が幸福になることが期待できる。
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(注※1)IFOAM-Organics International は、1970年代に活動を始めた国際NGOで、有機農業の分野では、国連をはじめ国際機関にも大きな影響力をもつ。100以上の国と地域に、800以上の会員がいる(https://www.ifoam.bio/about-us/our-network/become-affiliate より。2022年5月9日現在)。本部はドイツ(ボン)。
(注※2)PGS(Participatory Guarantee System:参加型認証制度)は、地域の様々な立場のメンバーが相互にほ場を訪ね、勉強会を行いながら、農産物がガイドラインを満たしているかどうかを検証しあうシステム。
(注※3)PGSにおいて、有機農業に関心を持ち、活動に参加するメンバーの総称。Stakeholderという語は、日本語に直訳すると「利害関係者」となるが、PGSにおいてはかなり広い範囲の人々を指しており、適当な翻訳語がなく、そのまま「ステークホルダー」と表記する。PGSにおけるステークホルダーには、生産者、消費者、小売店、栄養士、学識経験者、農業改良普及員、レストラン店主等の人々など、様々な立場の人が含まれることが望ましいとされる。
3.IFOAM/PGSと、日本の有機JAS制度の関係
有機農産物を求める消費者に信頼性の高い保証を与える点で、IFOAM/PGSは、有機JAS制度と目的は同じである。しかしながら、IFOAM/PGSは、有機農業に関心の深いステークホルダーが認証過程に直接参加する点が、有機JAS制度(第三者認証)とは決定的に異なる。
IFOAM/PGSは、地域の人々と共に、地域の人々のために、地域のイニシアチブで取り組まれることが重視される。地域のステークホルダーが、生産・評価・農場調査などに積極的に参加すれば、有機農業と生産品に対する信頼が高まることは言うまでもない。
また、継続的学習を必須とし、ステークホルダーの知識の共有や、小規模農家に対する支援を重視するIFOAM/PGSは、生産者が有機農業に興味を持つ機会、経済的利益を得る機会の創出を促す。継続的学習は、小規模生産者が、徐々に有機農業に転換していくことにもつながる。
そもそも、有機JAS制度は、認証基準を満たしていることを「生産者が証明すべきだ」という思想に基づいている。それに対して、IFOAM/PGSは、生産者を含むすべての対等なステークホルダー同士の「信頼関係」と、透明性・公開性の上に成り立っている。これらの中核となるのが、ステークホルダーが実際に生産者のほ場を訪ね、確認する「相互認証(狭義のPGS)」である。
なお、PGSにおける相互認証の対象は、農場全体(the whole farm)であり、個別の生産物ではない。
【参考】参加型認証制度(PGS)の定義/IFOAM(国際有機農業運動連盟)Definition of Participatory Guarantee System IFOAM(International Federation of Organic Agriculture Movements)日本有機農業研究会訳[2012])
(本項は、「オーガニック雫石(岩手県)運営方針 2.IFOAM PGSの基本理念」を参考に作成されています。)
4.オーガニックPGSひろしまの活動
オーガニックPGSひろしまは、有機農業を、ただ「農薬・化学肥料を使わない農業」と捉えているのではない。農業は、私たちが世界規模で直面している様々な問題の重要な一部であり、有機農業がそれらを解決する糸口や方法になると考えている。
これら世界規模での様々な問題は、時間的にも空間的にも、地球上のあらゆる場所がつながりあって起こっている。それは、「いま」「ここ(庄原・三次地域)」でも同様の問題が起こっていること、「いま」「ここ」から取り組める解決方法が「実際に」あることもまた、示している。
これらの問題に、無関係な人はいない。オーガニックPGSひろしまは、地域に開かれ、すべての異なる「スタート地点」にいる人々の参加を歓迎し、互いに学び合っていく「場」となる団体である。
5.IFOAM/PGSの「主要な6つの要素」
活動にあたっては、IFOAM/PGSの主要な6つの要素「ビジョンの共有」「信頼」「対等性(メンバー間の地位や役割に上下はない)」「透明性」「参加」「継続的学習」を重視する。
表1に、IFOAM/PGSの基本理念を構成する6つの基本要素および関連する具体的な活動を示す。
【表1】IFOAM/PGSの基本理念を構成する6つの基本要素(図1)と、関連する具体的な活動
基本要素
関連する活動(部分)
① ビジョンの共有
・草の根レベルで相互に協力する
・運営方針に掲げている内容を共有する
・インターネットを活用して情報共有・情報発信をおこなう
・勉強会・講演会や直接販売を通じて、思いや知識を継続的に共有する
② 信頼
・生産者が有機農業を遂行していることを宣誓する
・農場調査報告書に真摯に取り組む
・調査項目を継続的に更新し、ステークホルダーの信頼を得る
③ 対等性(メンバー間の地位や役割に上下はない)
・ステークホルダーの参加によって作成された基準を使用する
・情報を公開し、誰もがアクセスできる権利を確保する
・文書に基づいて公平に意思決定をおこなう
④ 透明性
・文書化された管理様式に基づく
・規則を遵守する
・規則違反行為は、明確に成文化された罰則規定に基づいて処理する
・情報公開・情報発信は、インターネットを活用しておこなう
⑤ 参加
・小規模生産者およびステークホルダーは、定例打合せ・農場調査・勉強会・各種イベントなどに積極的に参加する
⑥ 継続的学習
・生産者・ステークホルダーが学習を継続できるよう配慮し、機会を設ける
…勉強会や講習会の情報提供、参加呼びかけ
…農場調査の情報提供、参加呼びかけ
…有機産物であることを認証するシール・ラベルに関する理解を深める
【参考】「参加型保証システム(PGS)ガイドライン~どのようにしてPGSをつくり、機能させるか~」IFOAM(2008年)/日本有機農業研究会 訳(2015年)
【図1】IFOAM PGSの基本理念を構成する要素とその特徴(別紙)
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